白内障手術症例③
白内障手術症例
白内障手術において、選択することができる眼内レンズには様々なものがあり、それぞれのレンズの特徴も異なっています。手術を受ける上での参考としていただけるよう、今後、当院での手術症例をご紹介していきたいと思います。今回のコラムでは、選定療養の対象となる多焦点眼内レンズであり新しく乱視矯正が可能となったClareon ViVityを使用した2症例についてご紹介します。
症例① 焦点深度拡張型眼内レンズ(Clareon Vivity)
60代男性
主訴
半年前から急に左眼が見づらくなり、最近は右眼もモヤがかかっている感じがする
術前の状態
- 両目とも近視が強い
- 左眼には核白内障による視力低下および近視の進行を、右眼には後嚢下混濁を認めた
- 右眼の眼底にはわずかに網膜上膜を、また、網膜裂孔に対するレーザー治療の痕を認めた
治療概要
もともと強めの近視で裸眼の視力は良くありませんでしたが、コンタクトレンズを使用しているため、遠くが見えている状態に慣れていました。ドライブを好まれており、また、運動も高頻度でされているアクティブな生活をされている方で、なるべく眼鏡をかけたくないとご希望がありました。手術前の検査で多焦点眼内レンズの使用が望ましくない緑内障などの眼疾患や角膜の高次収差が認められませんでしたが、わずかですが網膜上膜を認めたことから、手元の細かい字を見る際には老眼鏡が必要となる可能性があるものの、見え方の質であるコントラスト感度の低下がない焦点深度拡張型の眼内レンズであるVivityを勧めさせていただきました。お仕事がお忙しいことから、両眼同日の手術を行いました。
術前視力
遠見視力(5m) ※( )は矯正視力
Vd(右眼) 0.1(1.2)
Vs(左眼) 0.05(0.7)
術後視力
遠見視力(5m)/中間視力(1m)/近見視力(30cm)
Vd(右眼) 1.2 1.2 0.9
Vs(左眼) 1.0 1.0 0.9
術後の感想
とてもよく見えて老眼鏡も不要。プラモデルの作成等、細かい作業時の時だけ拡大鏡を使用している。夜間の異常光視症(ハロー・グレア)も気にならず、運転も全く問題なくできる。やってよかった、友人にも勧めます。
症例②焦点深度拡張型眼内レンズ(Clareon Vivity)
50代女性
主訴
2年前から両眼が見づらく、白内障なのか老眼なのか分からないため相談したい
術前の状態
- 両目とも強度近視
- 右眼には皮質白内障による視力低下を認め、左眼にも同様の白内障が出始めていた
- 両眼ともOCTで視神経繊維層欠損を認めるが、視野検査では異常なし
治療概要
もともと強度近視のためで裸眼の視力は良くありませんでしたが、コンタクトレンズを使用しているため、遠くが見えている状態に慣れていました。まだお若いため、老眼はあるものの眼鏡をできるだけかけたくないとご希望がありました。手術前の検査で多焦点眼内レンズの使用が望ましくない角膜の高次収差は認められませんでしたが、OCT検査にて両眼に視神経繊維層欠損を認めました。視野検査では問題ありませんでしたが、将来的に緑内障を発症される可能性が高く、見え方の質がであるコントラスト感度が低下する可能性のある多焦点眼内レンズの使用は望ましくないため、手元の細かい字を見る際には老眼鏡が必要となる可能性があるものの、見え方の質であるコントラスト感度の低下がない焦点深度拡張型の眼内レンズであるVivityを勧めさせていただきました。利き目ではない眼に、わずかに近視寄りの眼内レンズを選択することで、近見視力を良くすることのできるマイクロモノビジョンと呼ばれる手法での手術を両眼同日に行いました。
術前視力
遠見視力(5m) ※( )は矯正視力
Vd(右眼) 0.02(1.0)
Vs(左眼) 0.03(0.9)
術後視力
遠見視力(5m)/中間視力(1m)/近見視力(30cm)
Vd(右眼) 1.2 1.2 1.2
Vs(左眼) 1.2 1.2 1.0
術後の感想
近くも見えて驚いています。細かい字も見えます。夜間の異常光視症(ハロー・グレア)に関しては、全く気になりません。
焦点深度拡張型の眼内レンズであるVivityは3焦点眼内レンズであるPanOptixと並んで当院で多く使用している多焦点眼内レンズになります。コントラスト感度が単焦点と同程度と低下しないため、緑内障や軽度の眼底疾患がある方でも選択肢にすることのできる非常に優れた眼内レンズですが、これまでは乱視矯正が出来なかったために使用できる方が乱視の少ない方に限定されてしまっておりました。幸いにも乱視矯正に対応したため、現在当院では多くの患者様にご使用いただいており、大変評判の良い眼内レンズとなっております。
Clareon® Vivity® は通常の多焦点眼内レンズのように複数の焦点に光を振り分けてはいないため、見え方や色の質が維持され、ハロー・グレアに関しても単焦点眼内レンズと同程度まで軽減されています。そのため、見え方の質を重視される芸術系の職業や趣味をお持ちの方、これまでは多焦点眼内レンズの適応とならなかった視神経や黄斑疾患をお持ちの方にも使用することが可能とされています。また、グレア・ハローがほとんど発生しないことから、夜間の運転を重視されるドライバーの方や運転が趣味の方も選んで頂くことが可能です。
米国および世界各国で先行して行われた臨床試験では、優れた品質の遠方視力(1.0)、中間視力(0.8以上)、おおよび実用的近方視力(0.6)を実現したことが示されています。眼内レンズの特性上、見え方の質が優れている一方で、近方の視力は3焦点眼内レンズ等に比べると弱く、手元の細かい作業や読書などの際には眼鏡が必要となる可能性が高くなります。製造されている眼内レンズの度数に制限があり、遠視や近視が強い方、乱視が強い方は使用ができない可能性があります。
当院の使用感としては、思いのほか近方の視力が出る方が多い印象となっております。Vivityを含めた焦点深度拡張型の眼内レンズは他の多焦点眼内レンズに比べると近方の視力が弱いため、マイクロモノビジョンといって、片眼をやや近視寄りにずらすことで近方の見え方を向上させる手法がとられることが多く、当院でも手法で手術を実施しております。基本的には術後に老眼鏡が必要だと思っていただきたいのですが、それを補って余りある優れたコントラスト感度や夜間の異常光視症が少ない自然に近い見え方を実現可能な眼内レンズであり、乱視が矯正できるようになったためなのかは不明ですが、今回ご紹介させて頂いた症例のように眼鏡が不要となる患者様も少なくない、大変優れた眼内レンズだと言えるでしょう。
夜間の運転を重視される方で、なおかつ近方視力を重視される方は、焦点が5か所あり遠方から近方まで満遍なく見える上に、複数の焦点を持つ多焦点眼内レンズの中で最小限の異常光視症に抑えられるIntensityをお勧めします。保険を使用できない自費の眼内レンズとなりますが、その性能や異常光視症の少なさから、現在選択することの出来る多焦点眼内レンズの中で最高峰の眼内レンズと言えるでしょう。
もし、老眼鏡の使用が許容できる方であれば、今回ご紹介させて頂いた選定療養の眼内レンズであるClareon Vivityや、自費の眼内レンズであるMiniwell ReadyやEvolveがお勧めとなります。これらの眼内レンズは多焦点眼内レンズの中でもコントラスト感度が高く、夜間の異常光視症もほとんどない焦点深度拡張型の眼内レンズであり、近方視力がやや弱いことを除けば自然に近い見え方を実現可能な大変優れた眼内レンズです。特にEvolveは患者様の近視や乱視に合わせてオーダーメイドが可能となっているため、他の眼内レンズでは適応とならないような最強度近視の方や乱視が強いために多焦点眼内レンズをあきらめていた方でも選択できる可能性があります。
当院では多焦点眼内レンズの力を最大限に引き出すために、手術前の検査において、最新の光眼軸測定器であるARGOSを使用しており、これにより高い精度で患者様の眼軸を測定することができ、屈折誤差が最小限となる眼内レンズ度数の選択が可能となっております。また、ARGOSは他社の検査機器では測定できないような進行した白内障でもほぼ100%測定が可能となっており、多くの患者様の術後視力の向上に繋がっています。また、角膜形状解析装置であるCASIA 2を使用することにより、通常の白内障手術前に測定される角膜前面乱視だけではなく、角膜後面乱視や不正乱視などによる高次収差の測定が可能となり、多焦点眼内レンズの適応の有無や術後の乱視の軽減を高い精度で行うことができております。当院ではさらに、ORAシステムという手術中にリアルタイムで眼の状態を測定し、世界中のビッグデータと比較することで最適な眼内レンズ度数や乱視軸を選ぶことができる器械を導入・使用しており、患者様の術後の屈折誤差を可能な限り少なく、精度の高い手術を受けて頂けるよう心がけています。
特に世界中で数多く使用されている多焦点眼内レンズであるPanOptixは、それだけ多くのデータが蓄積されており、手術中にORAシステムを使用することで屈折誤差が最小限に抑えられ、患者様の術後視力の向上に繋がっていると考えています。
当院では手術するかどうか迷われている方、検診などで白内障を指摘され、今すぐ手術が必要ではないものの将来的な選択肢を知りたい方など、すべての患者様に正しい情報を知ってもらい、将来を見据えた治療を選択していただきたいと考え、白内障の無料相談会も開催しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。