院長コラム

白内障手術症例⑤

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白内障手術症例

  白内障手術において、選択することができる眼内レンズには様々なものがあり、それぞれのレンズの特徴も異なっています。手術を受ける上での参考としていただけるよう、当院での手術症例をご紹介していきたいと思います。今回のコラムでは、自費診療の多焦点眼内レンズであるEVOLVEを使用した症例についてご紹介します。

 

症例 焦点深度拡張型眼内レンズ(EVOLVE)   
70
代男性

主訴

  2~3か月前から「視力低下」を自覚、「まぶしい」と感じる
        白内障が心配なため相談希望

術前の状態
  •   両眼とも-15Dを超える最強度近視
  •   両眼とも核白内障による近視の進行を認め、右眼には後嚢下混濁も認めた
  •   眼底は強度近視に伴う豹紋状眼底を呈しており、OCT検査では緑内障を疑う所見を認めた
  •   視野検査では明らかな緑内障は認めなかった

 

治療概要

患者様の状態と手術へのご要望

 本患者様は、最強度の近視により裸眼視力が著しく不良であり、日常的にソフトコンタクトレンズを装用されていました。手術にあたっては、可能な限り眼鏡に依存しない生活(多焦点眼内レンズによる矯正)を強くご希望されました。

 また、日常的な自動車の運転や、ゴルフ等の活動的なスポーツをされることから、特に夜間の異常光視症(グレア・ハロー)が少ない眼内レンズが望まれました。

 

本患者における課題とリスク
1. 既存多焦点眼内レンズの適用外

 患者様の最強度近視の度数に対して、一般的な多焦点眼内レンズでは製造範囲が適応外であり、通常の手術ではご希望に沿うことが困難でした。

2. 将来的な緑内障リスクへの配慮

 

 視野検査では緑内障の所見は認められませんでしたが、OCT検査にて将来的に緑内障を発症する可能性が高いと判断されました。このため、緑内障発症時の視機能維持の観点から、コントラスト感度の低下が少ない焦点深度拡張型(EDOF)の眼内レンズが最適であると考えられました。

3. 屈折型EDOFレンズ「EVOLVE」の選択

 

 上記の諸条件を総合的に判断し、保険適用外の眼内レンズではありますが、以下の特性を持つ屈折型EDOFレンズ「EVOLVE」を選択いたしました。

課題・要望 EVOLVEの選択がもたらす利点
最強度近視 屈折度数、乱視度数、乱視軸完全にオーダーメイドで製造可能であり、患者様の精密な眼の状態に合致させることができました。
夜間視機能(グレア・ハロー) レンズ設計により、他の多焦点眼内レンズに比べ異常光視症の発生が非常に少なく、夜間運転時の視機能維持に優れています。
緑内障リスクへの配慮 コントラスト感度の低下が少ないEDOF構造により、将来的な視野の維持に貢献し、視機能の質を保つことができます。

 また、患者様がお仕事の都合でお忙しいことから、ご希望に応じて両眼同日手術で対応させていただきました。

 

術前視力                                                

      遠見視力(5m)    ※( )は矯正視力                              

Vd(右眼)    0.02(0.6)                           

Vs(左眼)     0.02(0.8)                                           

 

術後視力

   遠見視力(5m)/中間視力(1m)/近見視力(40cm)

 Vd(右眼) 1.0               1.2                  1.0

  Vs(左眼) 1.0           1.2                  1.0

 

術後の感想

 「とても快適。良く見えるし夜間の異常光視症も気にならない。新聞などの細かい字を読む際は老眼鏡を使用します。」

 

 EVOLVE(エボルブ)は製造可能な眼内レンズの度数の幅がかなり広く、強度近視の方にも対応可能な屈折型の焦点深度拡張型(EDOF)の眼内レンズになります。近方50㎝から遠方まで見える連続焦点レンズです。

  •  EVOLVE(エボルブ)の最大の特徴は、既製品の多焦点眼内レンズでは範囲外となる強度近視、強度乱視に対応可能な点です。EVOLVEは素材からイタリアSOLEKO社で自社製造を行っているため、乱視がオーダーメイド(1度刻みでオーダー可)で製作可能です。そのため、これまでは近視乱視が強いために多焦点眼内レンズを選択することのできなかった方が、こちらの眼内レンズであれば、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術が実現可能となります。
  •  EVOLVEは暗所でのハロー・グレアがほとんど発生せず、海外の臨床研究でもハロー・グレアを自覚された方が1人もいなかったことからも、夜間の運転に適している眼内レンズと言えます。また、同研究で70%の方が日常生活で眼鏡を全く使用しなくなったと回答されていますが、レンズの設計上、近方の焦点距離は50cmと手元の見え方はやや弱く、老眼鏡が必要となる可能性があります。しかしながら、当院での使用感としてはレンズの設計以上に眼鏡が不要になる方が多い印象があります。

 

 両眼とも同じ眼内レンズを使用する場合で夜間の運転を重視される方、なおかつ近方視力を重視される方は、焦点が5か所あり遠方から近方まで満遍なく見える上に、複数の焦点を持つ多焦点眼内レンズの中で最小限の異常光視症に抑えられるIntensityをお勧めします。保険を使用できない自費の眼内レンズとなりますが、その性能や異常光視症の少なさから、現在選択することの出来る多焦点眼内レンズの中で最高峰の眼内レンズと言えるでしょう。
 手術が保険適応となる選定療養の眼内レンズから選ぶ場合、焦点深度拡張型3焦点眼内レンズMix & Match「夜間運転を重視しながらも近方視力を確保したい方」にとって最適な選択肢のひとつと言えるでしょう。選定療養に眼内レンズで実現できる高性能な組み合わせとして、多くの患者様に満足いただいております。

 もし、老眼鏡の使用が許容できる方であれば、選定療養の眼内レンズであるClareon Vivityや、自費の眼内レンズであるMiniwell Readyや今回ご紹介したEvolveがお勧めとなります。これらの眼内レンズは多焦点眼内レンズの中でもコントラスト感度が高く、夜間の異常光視症もほとんどない焦点深度拡張型の眼内レンズであり、近方視力がやや弱いことを除けば自然に近い見え方を実現可能な大変優れた眼内レンズです。特にEvolveは患者様の近視や乱視に合わせてオーダーメイドが可能となっているため、他の眼内レンズでは適応とならないような最強度近視の方や乱視が強いために多焦点眼内レンズをあきらめていた方でも選択できる可能性があります。

 当院では多焦点眼内レンズの力を最大限に引き出すため、手術前の検査において、最新の光眼軸測定器であるARGOSを使用しており、これにより高い精度で患者様の眼軸を測定することができ、屈折誤差が最小限となる眼内レンズの選択が可能となっております。また、ARGOSは他社の検査機器では測定できないような進行した白内障でもほぼ100%測定が可能となっており、多くの患者様の術後視力の向上に繋がっています。また、角膜形状解析装置であるCASIA 2でも検査することにより、通常の白内障手術前に測定される角膜前面乱視だけではなく、角膜後面乱視や不正乱視などによる高次収差の測定が可能となり、多焦点眼内レンズの適応の有無や術後の乱視の軽減を高い精度で行うことができております。当院ではさらに、ORAシステムという手術中にリアルタイムで眼の状態を測定し、世界中のビッグデータと比較することで最適な眼内レンズ度数や乱視軸を選ぶことができる器械を導入・使用しており、患者様の術後の屈折誤差を可能な限り少なく、精度の高い手術を受けて頂けるよう心がけています。

 当院では手術するかどうか迷われている方検診などで白内障を指摘され今すぐ手術が必要ではないものの将来的な選択肢を知りたい方など、すべての患者様に正しい情報を知ってもらい、将来を見据えた治療を選択していただきたいと考え、白内障無料相談会も開催しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。