院長コラム

白内障手術の注意点

白内障

白内障手術は、特に目に問題のない方であれば通常は10分程度の短い手術になります。「それなら簡単に、気軽に受けられる」と思われる患者様も少なくありません。確かに必要以上に不安に思われる必要はありませんが、そうは言っても手術ですのでしっかりと気を付けないといけないことがあります。今回は白内障手術を受けるにあたり、患者様に気をつけて欲しいこと、私たちが注意していることについてお話したいと思います。

白内障手術前の注意点

白内障手術で何より一番大切なのは感染を予防することです。目の中というのは感染に非常に弱い作りをしており、手術の傷口から細菌やカビが入ってしまうと最悪失明に繋がってしまう可能性がるため、万が一にもそのようなことが起きないようにする必要があります。そんな感染予防のために当院で手術前に患者様に気を付けて頂いていること、私たちが気を付けていることをお話ししていきます。

 手術前の点眼

手術の3日前から抗生剤の点眼を使用します。これにより手術当日は目の周囲がきれいな状態になっています。
                            

術者・助手の準備

手術に際し、術者である私と、手術器具を準備し手術中に助手を行う看護師は、手術用のマスクと帽子を身に着けます。これにより飛沫や髪の毛が落ちることを防ぐことができます。次にしっかりと手洗いをした後にアルコール消毒を行い、滅菌された術衣と手袋を身に着けることで私たちのまわりは無菌状態になります。手術中に私たちや使用する器具・機械が不潔にならないように、使用する器具は滅菌したものを使用し、手術ごとに触って動かす必要がある顕微鏡は滅菌されたキャップを手術ごとに交換することで触っても問題ないようにしています。

患者様の準備

手術を始める前に患者様の目の周りを清潔にする必要があります。まずは目の周りの皮膚、目の中をヨード系の消毒液で消毒をします。その後、目の部分に穴があいている清潔な布を被せ、まつ毛が邪魔にならないようにフィルムテープを張ります。そこに開瞼器と言って、手術中にまぶたが閉じないように開いたままにする器具をかけて手術の準備は完了となります。

手術中の注意点

手術前の準備が整ったらいよいよ手術になります。患者様が安心して手術を受けて頂けるように私やスタッフが注意し、工夫しているところ、また、患者様に気を付けて頂きたいことをお話ししていきます。

患者様に気を付けて頂きたいこと

まずは手術中に患者様に気を付けて頂きたいことお話ししたいと思います。

息を止めない、力まない

手術ですので皆様緊張されているのが普通です。ただ、緊張して息を止めたり、力んでしまうと、血圧が上がったり、眼圧があがったりしてしまって、手術自体が危険になる場合があります。そのため、手術中は深呼吸を繰り返し、出来るだけ力を抜いてリラックスするようにお声がけしています。

 顔や体を動かさない

白内障は顕微鏡を見ながらミリ単位で行う手術になります。手術中にお顔や体を動かしてしまうことは大変な危険を伴います。こちらから「上を見てください、右を見てください」と言われた際には目だけを動かすようにしましょう。片目をつぶった状態で目を自在に動かすことは難しいため、両目を意識して開いて動かすことが大切です。

 何かあったら声で教えて下さい

お顔や体は動かないようにして頂きたいのですが、口は動かしても大きな問題はありません。そのため手術中に何か困ったことがありましたら喋って伝えるようにしましょう。こちらも極力痛みが少ない手術を心がけてはいますが、人によっては痛みを感じてしまう方もおられます。麻酔の追加は可能ですので、何かありましたら遠慮なく教えて下さい。

手術中の声かけ

私たちは患者様が安心して手術を受けて頂くことが緊張をほぐし、それが安全な手術に繋がると考えておりますので、手術中のこまめな声掛けと親身な対応を心がけています。今回は私が実際に患者様の緊張をほぐすために行っている具体的な声掛けを書いてみたいと思います。

 「順調ですよ」

白内障手術で一つの関門である前嚢切開が無事に終わった際にお話ししております。目が動きやすい方には前嚢切開をする際に「大事なところなのでまぶしいところをジッと見ててください」とお話ししていますので、緊張されている方も多く、この一言でホッとされる方が多いように感じています。

 「少し見え方が変わりますが驚かないでくださいね」

前嚢切開後に、お水を使って水晶体と水晶体が包まれている袋である水晶体嚢を分離する際にお話ししています。突然見え方が変わったり、眼圧の変化で重たく感じることがありますので驚かないように事前に説明をしています。

「少し重たくなりますよ」

超音波で水晶体を砕いて吸い取る器具を眼の中に入れる際に声掛けをしています。目の形が保たれるように自動的に目の中でお水が循環されるのですが、通常よりも眼圧が高くなりますので患者様が驚かれないように説明をしています。

「あと2,3分で終わりますよ」

水晶体を大まかに取り除いた際に声掛けをしております。手術が順調に進んでいるとはいえ、あとどれくらいかかるのだろうと不安に思われないようにお話ししています。

「レンズが入るので目が上から押されますよ」

水晶体の濁りを取り切っていよいよ眼内レンズを眼の中に入れるときに声掛けをしています。折りたたまれたレンズをギリギリの幅の傷口から入れるために目が上から押される感じがすることがあり、違和感を覚えることが多いので事前に説明をしております。

「もう仕上げですからね」

レンズが無事に入ったときに声掛けをしています。手術終了まであと一歩となります。

「お疲れさまでした、無事に終わりましたよ」

手術終了時に声掛けをしています。「大丈夫だったのだろうか」、「何か問題はなかったのだろうか」と不安に思われる方もいらっしゃると思いますので、ここで無事に終了したことを説明しています。

「はがすときちょっと痛いですよ、ギュッとつぶらないようにして下さい」

手術終了後にお顔にかけた布を剝がすときに声掛けをしています。白内障の手術は比較的痛みの少ない処置になりますので、お顔の皮膚についているテープを剥がす瞬間が実は手術で一番痛い瞬間かもしれません。実際にそのようにおっしゃる患者さんが多くいらっしゃいます。無事に終わったのに目に力を入れてしまいトラブルの元となるのを防ぐために説明をさせて頂いています。

「今日は眼帯なので気を付けてください」「しばらく見づらいので気を付けてください」

片目の手術の方はガーゼで覆ってから眼帯を付けます。片目での生活は遠近感が掴みづらいため注意する必要があります。また、両目の手術を行った方は、手術直後は両目とも散瞳と言って目薬で瞳が大きく開いており、また、軟膏や炎症の影響ではっきりとは見づらい状態となります。

いかがでしたでしょうか?私が手術中に心がけていることを書かせていました。実際の手術では進み方も緊張の仕方も人それぞれですから状況に応じてお声がけさせてもらっています。患者様に安心して頂くことが安全な手術に繋がると考えており、できる限りリラックスして手術を受けていただけるような環境作りを、スタッフ一同全力で心がけております。

 

白内障術後の注意点

白内障手術が無事に終わった後も感染の危険性があります。術後の感染は最悪失明に繋がってしまう可能性があるため、細心の注意を払って予防する必要があります。感染予防のために当院で手術後に患者様に気を付けて頂いていることを中心にお話ししていきます。

手術後の点眼

手術翌日から開始する3種類の目薬になります。抗生剤の点眼や炎症を抑える点眼を手術後2~3か月使用しますが、こちらも手術前の目薬と合わせて感染を予防する上でとても大切になります。             

汚いお水が目に入らないようにする

手術で出来た傷口は一般的に4日程度で塞がると言われています。当院では万が一のことも起きないように念のため1週間は目にお水が入らないように気を付けて頂いています。具体的には

☑手術後1週間は首から下のシャワーか入浴にして頂き、お顔は濡れタオルで拭く、髪は拭いていただくか、美容院で上を向いた状態でお顔に水がかからないように髪を洗っていただくようにお願いしています。

☑台所で水がはねたりすることもありますので、保護メガネの着用を推奨しています。

☑汗をかくような激しい運動やプール、温泉は1か月間控えて頂きます。

☑お水ではありませんが、土や植物には雑菌やカビがいますので術後2週間は土いじり等を避けて頂いています。

アルコールは1週間禁止

手術により炎症が少なからず起きますので当院では飲酒は1週間控えて頂きます。炎症に良くないのはもちろんですが、転倒して目をぶつけてしまうと取り返しのつかない事になりかねません。

手術後の食事の注意点

普段通りの食事を取って頂いても構いませんが、あまり辛すぎるもの等の刺激が強いものは数日控えて頂いた方が良いです。

運転に注意しましょう

患者様にもよりますが、手術後すぐは視力が安定しません。見やすい距離も1か月程度は変化します。そのため、運転してよいかどうかは必ず検査の結果をもとに診察時にお話しするようにしています。

仕事復帰はいつから可能?

白内障手術の翌日に眼帯が外れます。手術後の点眼をしっかりとさして頂き、事務仕事やデスクワークでしたら通常通り仕事をすることができます。念のため保護メガネの着用をお勧めします。埃っぽい環境でのお仕事、重い荷物を持ったり、汗をかくようなお仕事、農業など土をいじったりするお仕事は傷口が開いてしまったり、感染のリスクがあるため、手術1か月後の開始となります。また、お仕事で運転をされる方は、視力が安定するまでの期間が人それぞれ異なるため診察時にご相談ください。最長1か月を見て頂くことをお勧めいたします。

手術後の通院はいつまで必要?

白内障手術の翌日に眼帯が外れた後は3~4日後、1週間後に通院をお願いしております。この時期は感染による眼内炎の発症が起こる可能性がありますので注意深く経過観察を行う必要があります。その後は点眼が終了する3か月まで1か月ごとの通院をお願いしております。また、後発白内障や遅発性眼内炎といった後から出てくる合併症もあるため、6か月後、1年後の検診をお勧めしております。

 

いかがでしょうか?手術が無事終わったらそこで一安心ではなく、手術後しばらくは注意しなければならないことが多くあります。大変と思われるかもしれませんが、一生に1度の手術ですので、是非私たちと一緒に頑張って頂きたいなと思っています。何か分からないことや不安なことがありましたら遠慮なく当院へご相談いただければ丁寧に説明させて頂きます。