院長コラム

焦点深度拡張型眼内レンズ

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焦点深度拡張型眼内レンズ

 

 今回も、白内障手術に使う、眼内レンズの話になります。

 前回、多焦点眼内レンズとは、焦点が合う特定の距離が複数ある「多焦点眼内レンズ」と言われているものの他に、遠距離から近距離まで連続して切れ目なく見える「焦点深度拡張型眼内レンズ」も含まれる、というお話をしました。今回は焦点深度拡張型眼内レンズについて取り上げたいと思います。

 

焦点深度拡張型眼内レンズの特徴

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  •  焦点深度拡張型眼内レンズは、光を複数個所に分散させることなく、眼内レンズに特殊な設計を施すことで焦点距離を遠方から近方まで引き伸ばすことができる眼内レンズになります。光を分散させないことから、見え方の質や夜間の見え方が単焦点眼内レンズに近く、自然な見え方が実現可能な眼内レンズと言えます。

 

        

 

 焦点が複数ある多焦点眼内レンズに比べると手元の見え方が劣るため、手元の距離をはっきりと見るためには老眼鏡が必要となる可能性がありますが、ハロー・グレアがほとんど発生しないことから、夜間の運転を重視される方におすすめできる眼内レンズです。

 

当院で使用している焦点深度拡張型眼内レンズ

Clareon® Vivity® AutonoMe®

 Clareon® Vivity® は独自の波面制御(X-WAVEテクノロジー)を搭載した、波面制御型焦点深度拡張眼内レンズです。この波面制御により波面を引き伸ばし、同時にシフトさせることで、連続的に拡張された焦点を創り出し、遠方から実用的近方距離まで切れ目なく優れた見え方を実現しています。また、Clareon® 、Clareon® PanOptixと同様に新しい疎水性アクリル素材を使用しており、レンズの表面が滑らかで広域かつ鮮明な視覚を長期的に維持できるように設計されています。自動プリロード眼内レンズデリバリーシステムのClareon® AutonoMe®を使用しているため、低侵襲で安全性に配慮した手術を行うことができます。こちらのレンズは、一部に保険適用が可能な選定療養を利用して白内障手術を受けて頂くことが可能です

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 Clareon® Vivity® は通常の多焦点眼内レンズのように複数の焦点に光を振り分けてはいないため、見え方や色の質が維持され、ハロー・グレアに関しても単焦点眼内レンズと同程度まで軽減されています。そのため、見え方の質を重視される芸術系の職業や趣味をお持ちの方、これまでは多焦点眼内レンズの適応とならなかった視神経や黄斑疾患をお持ちの方にも使用することが可能とされています。また、グレア・ハローがほとんど発生しないことから、夜間の運転を重視されるドライバーの方や運転が趣味の方も選んで頂くことが可能です。

 

 米国および世界各国で先行して行われた臨床試験では、優れた品質の遠方視力(1.0)、中間視力(0.8以上)、おおよび実用的近方視力(0.6)を実現したことが示されています。眼内レンズの特性上、見え方の質が優れている一方で、近方の視力は3焦点眼内レンズ等に比べると弱く、手元の細かい作業や読書などの際には眼鏡が必要となる可能性が高くなります。製造されている眼内レンズの度数に制限があり、また、国内では乱視矯正が可能なモデルが発売されていないため、遠視や近視が強い方、乱視が強い方は使用ができない可能性があります。

 

Mini WELL(ミニウェル)

Mini WELL(ミニウェル)は焦点深度拡張型の眼内レンズハロー・グレアが多焦点眼内レンズの中で最も少ない為、夜間運転する方にも適した眼内レンズになります。

                                     

 球面収差を利用して連続的に焦点の合う範囲を広げたレンズで、特に近方45㎝から遠方までの見え方が自然で連続して見え、単焦点レンズとほぼ同等のコントラスト感度やシャープさがあり、暗所でのハロー・グレアもほとんど発生しません。

               

 

 乱視矯正も可能ですので、遠方はもちろんのこと、パソコン作業やデスクワークもよく見えますが、それより手元側の30cmくらいの距離になるとピントが合いにくくなります。やや離し気味に見てもらうか、必要に応じて度数のゆるい老眼鏡を使っていただくことになります。スポーツや運転を良くされる方、もともと老眼鏡を使用するのが苦でない方にとっては非常におすすめの眼内レンズです。ただし、国内では未承認の眼内レンズのため、検査費用や手術費用は全て自由診療となります。

 

EVOLVE(エボルブ)

  •  EVOLVE(エボルブ)は製造可能な眼内レンズの度数の幅がかなり広く、強度近視の方にも対応可能な屈折型の焦点深度拡張型(EDOF)の眼内レンズになります。近方50㎝から遠方まで見える連続焦点レンズです。
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  •  EVOLVE(エボルブ)の最大の特徴は、既製品の多焦点眼内レンズでは範囲外となる強度近視、強度乱視に対応可能な点です。EVOLVEは素材からイタリアSOLEKO社で自社製造を行っているため、乱視タイプがオーダーメイド(1度刻みでオーダー可)で製作可能です。そのため、これまでは近視や乱視が強いために多焦点眼内レンズを選択することのできなかった方が、こちらの眼内レンズであれば、多焦点眼内レンズを用いた白内障手術が実現可能となります。
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 EVOLVEは暗所でのハロー・グレアがほとんど発生せず、海外の臨床研究でもハロー・グレアを自覚された方が1人もいなかったことからも、夜間の運転に適している眼内レンズと言えます。また、同研究で70%の方が日常生活で眼鏡を全く使用しなくなったと回答されていますが、レンズの設計上、近方の焦点距離は50cmと手元の見え方はやや弱く、老眼鏡が必要となる可能性がありますが、レンズの設計以上に眼鏡が不要になる方が多い印象があります。

 

  •  3回にわたり、恵比寿くぼの眼科で白内障手術に使用しているレンズのお話をさせて頂きました。
  • 「ものがよく見える」ということは、今後の生活の質(QOL)を高める上で、非常に重要なことです。
  • 一般的に白内障手術は急を要する治療ではありません。だからこそ、納得のいく治療を受けることが大切だと考えます。

 恵比寿くぼの眼科が、皆様のQOLの向上に少しでも貢献できれば幸いです。

  •  白内障手術に関して、分からないこと、不安なことがございましたら、どんな些細なことでも、ご相談ください。

 

 

 

*使用している画像はアルコン社および各眼内レンズメーカーより提供